NSTEMIであっても緊急にCAGを行う必要がない。2018年JACC。ICTUS研究10年追跡の結果から。
JACC 2017 vol 69. No.15; 1883-93
【背景】NSTEMIの患者に対してカテーテル検査及び治療をどのタイミングで行うか、ESCガイドラインにはリスク別に4段階に別れています。このガイドラインは4つの代表的試験に対するメタ解析の結果によって構成されておりますが、5年、10年と見るとEarly invasiveとdelayed invasiveに差がなくなってきたとの報告が相次いでいます。
【目的】ICTUS (invasive versus conservative treatment in unstable coronary syndromes)試験に置ける10年後の状況を解析することを目的としています。
【対象】
@胸痛が継続し、すでにトロポニン陽性 (30 ng/L以上)であるNSTEMI。心電図変化ありが、既往に冠動脈インターベンションがあるか。ただし48時間以内に発症したSTEMIは除く。
@虚血主体治療群にはコントロールできない胸痛、もしくは事前にストレスシンチで虚血が証明されている患者は研究からのぞきます。
@いずれのグループに属するにせよ、適切な内科治療(DAPT, beta blocker, nitrates)は継続します。
【方法】
@24hr以内に緊急にカテーテル検査を行う群:early invasive group
@25-72hr以内ににカテーテル検査を行う群:delayed group
【アウトカム】
10年追跡で、全死亡、予期せぬ心筋梗塞発症をプライマリエンドポイントとしています。
副次項目としては心不全や術後検査や手術の有無を追っています。
【解析方法】
@ ITT解析
@患者のリスク層別にFIR risk scoreを用いた。これは年齢を60-75までで5歳ずつ分けて0-5点でスコアリング。あとは既往にMIがあるか、心電図変化はあるか、高血圧症tBMIもスコアに入れて算出している。
@Cox proportional hazard ratio; 調節因子としては年齢、性別、BMIやたのリスクファクターを用いている。
【結果】
1,200人中604人がearly invasive groupに、596名がdelayed groupに割り付けられました。この二つの群の背景には有意な差は認めません。10年間の追跡成功率は94%と優れたものでした。平均年齢は62歳で、7割以上が男性です。心電図上虚血を疑わす変化 (defined as ST-segment depression or transient ST-segment elevation exceeding 0.05 mV or T-wave inversion of > 0.2 mV in 2 contiguous leads)
は50%に認めました。私見としていつも思いますが、これを正確に表現できれば心電図診断中心でも良くなるはずです。ここが難しいのでバイオマーカーの優越性があるわけです。
さて平均トロポニン値は29 ng/Lです。
一方で10年で心血管死亡はEarly invasive groupで17.8%対して、selective invasive groupは15.2%と有意差はありませんでした。心筋梗塞を見ても同様です。手技に伴うMIに関しては早く行った方が有意に多い結果です (6.5% vs 2.4%)。この差はあったとしても予後には影響ないレベルなんでしょう。QOLとして心不全入院や不整脈が起こるか否かで表現してみてもいいかもしれませんが。ただこの差が下記のK-Mの図になります。
Bの方で、差は最初に生じ、以後平行線ですね。
【結論】
conventional troponin 値 30 ng/mL以上を示すNSTEMI患者に対して24時間以内にCAGをやっても72時間まってCAGを行う群と比べてメリットはない。むしろ術後の心筋梗塞を増やしている。しっかりとした内科的治療を行えば待ってカテーテル検査を行った方が効果的と言える。
【私見】
conventional assay系を用いて30 ng/L以上のトロポニン値を見せる患者に対して、胸痛がコントロールされていればCAGを急いでしなくてもいい、という感覚は理解できる。ただこれが高感度トロポニンでの値ならもっとより明確に、緊急カテを行わなくてもいい、といえると思います。
それから軽度の心筋障害を起こし、かつ入院して最終カテーテル検査を行っているこれらのコホートでは10年後を見ることにどのくらいの意義があるのか、疑問です。感覚的に差がなくて当然です。なぜなら軽度しか心筋障害がないので、そこに早期に行うか、待って行うかという判断は影響を及ぼさないでしょう。