血圧コントロールと出血イベント J-RHYTHMレジストリーからの適正血圧の見解
【研究の背景】
2016年にJournal of american heart associationに報告された日本人心房細動コホート J-RHYTHMレジストリーからの報告です。抗凝固療法で気を付けなければならない出血イベント、特に脳出血に関しては日本人は元々多い民族ですので、関心の高い事柄です。
【リサーチクエスチョン】
非弁膜症性心房細動患者において高血圧症はどの程度の塞栓症と出血イベントに影響を与えるか。
【方法】
@ 患者対象;日本158施設;主に不整脈を専門とする施設からエントリーされた7,516人(男性;70.8%, 平均年齢 69.8 +/- 10.0)。
【定義】高血圧症;140/90以上で降圧剤服薬の有無は問いません。
患者背景から高血圧症グループには高齢で糖尿病を有しCHADS2 scoreが高くワルファリンと抗血小板剤をいずれも服薬し降圧剤服用している (94.8%)患者が有意に多いことがわかります。
@ 研究形式
後ろ向き研究
@ アウトカム
2年後の塞栓症と出血イベント(脳内出血も別途解析)。
@ 解析方法
レジストリーエントリー時の血圧と来院時の血圧値をそれぞれ四分位に分けイベント発生率を算出しています。
工夫している点は患者背景を以下の4つの調整程度に分類していることです。
1)未調整
2)CHADS2 score (without hypertension)
3)CHA2DS2-VASCs (without hypertension)
4)3)+ワルファリンと抗血小板薬服薬
【結果】
塞栓症はともかく出血イベントにはやはり高血圧症グループが有意に多いことがわかりました。
一方で高齢がイベントにかかわる因子で最も高いHRを示しました。出血に関してはワルファリン服用者も同様です。
それも下記の図のように収縮期血圧136 mmHg以上で明らかな出血イベントの増加が観察されました。
確認すべき事項としてはレジストリーに登録された時点での血圧ではなく(本文参照。本ブログにはのせていません。)イベントを起こす直前の血圧が、イベント予測因子として有意差をもって抽出されていることです。
また出血イベントの中でも特に注目される脳内出血はさらに血圧に依存している結果と解釈できます。
【結論】
収縮期血圧136mmHgをカットオフ値として出血イベントを予測できることがわかりました。AUC値では脳出血に関してでも0.71とあまり高くはありませんが、75歳以上であったりワルファリン服用者ではより強調されてきます。
【私見】
後ろ向き研究であり、参加施設が循環器領域を専門とした施設が多いことがリミテーションにあげられています。しかし循環器専門医が対応していてもやはり高齢者やワルファリン服用者の高血圧患者で出血イベントが多いことは事実として理解することにはそれらのバイアスはあまり重要ではないと思います。このワルファリンの出血が多いという問題点がDOACへの変更を促しています。医師は年齢をコントロールすることができない以上、血圧が出血イベントを抑制するターゲットであることは間違いなく収縮期血圧140mm Hg未満に、というガイドライン通りに出た結果は容認できますね。