非ST上昇型心筋梗塞を疑う患者に対する高感度トロポニンTの効能。特に主訴別での検討。
【リサーチクエスチョン】
“胸部症状”という主訴で救急室に来院した患者に高感度トロポニンT (hs-cTnT)が鑑別診断に、どの程度有効か?
【方法】
@ 試験デザイン
ドイツの1施設で行われた観察研究です。6ヶ月の間、救急室に来院した連続3327名を対象に行われました。そこから救急医、もしくは循環器医の診療で急性冠症候群を疑われた658例を対象に
1)典型的な虚血性心疾患による胸痛
2) 呼吸困難
3) 非典型的な胸痛
の3群に分類しました。全症例にhs-cTnTを測定しました。
◼️ exclusion criteria
STEMI, LBBB。
【研究プロトコール】
後ろ向き研究です。
【アウトカム】
急性冠症候群に対するhs-cTnTの診断効率。ACSの診断は二人の循環器医によってCT, MRA, CAGやラボデータを元に、後ろ向きに検討されました。
【結果】
- 患者背景です。半分以上が男性がで、平均年齢が70歳前後です。75歳以上が3割を占めます。NSTEMI, UAの割合は当然の結果ながら虚血性胸痛を疑う患者に最も比率が高くなりました。
呼吸困難が最も診断効率の悪いグループになります。そこにはNTproBNP値をみればわかるように心不全患者が大分多いと思われます。それゆえ死亡率も最も高いのでしょう。GRACE scoreも最高値の群です。AUC値は虚血性胸痛でhs-cTnTが最も高値を示すことがわかります。しかし他の2群では正確な診断は難しそうです。
以上から本論文では以下の3点を明らかにすることができました。
1)ACSをhs-cTnTを用いて効率よく診断するためには主訴によるスクリーニングが重要。
2) 呼吸困難症状の患者からACSを正しく診断するにはhs-cTnTでは難しい。
3) 経時的なhs-cTnTの増加は高いほど予後は不良。
【私見】
感度特異度の図抜けた高感度トロポニン測定系ですが、やはり基本の問診によるスクリーニングなしではその性能を発揮できません。後ろ向きの単施設の研究ですが理にかなった結論と考えます。
当たり前ですが診断機器を使いこなす医師の能力ありきです。まるでパソコンやスマホと同じです。使いこなす能力がないとそのパソコンの能力を1/10も使いこなせませんね。